太陽光発電システムの普及が進む中、工場や商業施設、住宅の屋根上、さらには高架橋やカーポートなど、都市部や人口密集地への設置が急速に拡大しています。それに伴い、事業者や設計者が直面している最重要課題の一つが「火災の防止と延焼リスクの低減」です。
万が一の火災事故は、近隣への延焼被害だけでなく、企業の社会的信用の失墜や系統連系の停止といった甚大なリスクを招きます。
本記事では、太陽光モジュールの安全性を客観的に評価する国際規格「IEC 61730-2(ANSI/UL 790)」の防火試験基準と、日本市場で設置する際に不可欠となる建築基準法上の「DR飛火認定(飛び火認定)」について、技術的要件から製品選定のポイントまで体系的に解説します。
1. 都市部における太陽光パネルの火災リスクと教訓
太陽光発電は高電圧を扱う電気設備であり、製品の欠陥や施工不良、外的要因による破損などが原因で火災に至るリスクを常に孕んでいます。特に人口密集地やインフラ施設における火災は、甚大な被害をもたらします。
【事例】都市高速道路の防音壁太陽光発電システムでの火災事故
2025年5月、中国・上海市の虹梅南路高架道路(快速道路)の防音壁上部に設置された太陽光パネルから出火する事故が発生しました。黒煙が広範囲に立ち込め、燃焼した部材の残骸やガラスの破片が走行中の車両が通行する地上道路へ落下。警察による交通規制や大規模な避難誘導を余儀なくされました。
このプロジェクト(設備容量1.5MW)は、都市型スマート交通の先進モデルとして国際フォーラムでも発表され、系統連系を開始したばかりでした。事故原因の詳細は偶発的な要因を含め調査が続けられていますが、先進的なプロジェクトであっても「ひとたび火災が発生すれば、モジュール自体の延焼拡大や部品の脱落が致命的な社会的被害を引き起こす」という現実を浮き彫りにしました。
都市環境で太陽光設備を共存させるためには、「万が一の出火時にも炎を広げない」「火の粉で周辺に延焼させない」という厳格な製品防火性能の担保が不可欠です。
2. 太陽電池モジュールの国際防火試験規格(IEC 61730-2 / ANSI/UL 790)
屋根上設置(BAPV)や建材一体型(BIPV)の太陽光モジュールの安全性を客観的に評価するため、グローバル市場では第三者認証機関によるIEC 61730-2規格(ANSI/UL 790試験準拠)の認証取得が業界標準となっています。
試験は主に「火炎試験(Spread of Flame Test)」と「燃焼木片試験(Burning Brand Test)」の2つで構成され、耐火・防火性能に応じてClass A、Class B、Class Cの3つの等級に分類されます。
【防火性能の高さ】
Class A (最高水準:厳格な防火対策が求められる現場向け)
↑
Class B (中程度:商業施設・大規模屋根向け)
↑
Class C (最低要件:一般的な屋根置き型のベースライン)
① 火炎試験(Spread of Flame Test)
モジュール表面における火炎の伝播、および架台・屋根材との隙間における延焼を評価します。一定の送風環境下で、ガスバーナーの火炎をモジュール表面に直接噴射して試験を行います。
-
Class C:バーナー出力 約325kW / 火炎暴露時間 4分間
-
Class A・Class B:バーナー定格出力 378kW / 火炎暴露時間 10分間
② 燃焼木片試験(Burning Brand Test)
外部からの飛火(火の粉や燃えかす)に対する耐久性を評価します。規定の重量・サイズ(Classに応じて約10g〜2,000g)の木片を格子状に組んで点火し、送風下でモジュール表面に載せて延焼状況を観察します。
③ 等級(Class A / B / C)の判定基準
試験後、IEC 61730-2の要件に基づき以下の合否基準が判定されます。
-
燃焼物の脱落防止:モジュールから火花や燃焼した部品が架台から脱落・落下しないこと。
-
火炎伝播距離の制限:延焼距離が以下の数値を下回ること。
-
Class A:1.82m以下
-
Class B:2.40m以下
-
Class C:3.90m以下
-
-
側面方向への火炎拡大が適切に抑制されていること。
【IEC 61730-2 / ANSI/UL 790 防火等級一覧表】
| 等級 | バーナー出力 | 火炎暴露時間 | 燃焼木片サイズ | 最大火炎伝播距離 | 想定される用途 |
| Class A | 378 kW | 10分間 | 大(Class A Brand) | 1.82 m以下 | 防火地域、高密度都市インフラ、重要施設 |
| Class B | 378 kW | 10分間 | 中(Class B Brand) | 2.40 m以下 | 一般産業用施設、商業ビル屋根 |
| Class C | 約325 kW | 4分間 | 小(Class C Brand) | 3.90 m以下 | 一般住宅屋根(標準的な合格ライン) |
3. 日本市場における建築基準法と「DR飛火認定」
日本は国土が狭く、都市部の人口密度が極めて高い国です(例:東京都23区 約15,500人/km²、豊島区 約23,000人/km²)。そのため、火災時の市街地延焼を防ぐ目的で、世界的に見ても極めて厳格な建築規制が敷かれています。
日本市場に太陽光発電設備を設置・販売する場合、国際規格の取得だけでなく日本の建築基準法への適合が不可欠です。
建築基準法における3つの主要防火区域
都市計画法および建築基準法に基づき、日本の市街地は主に以下のエリアに分類されます。
-
防火地域:駅前繁華街、主要幹線道路沿いなど、延焼リスクが最も高い地域(耐火建築物が原則)。
-
準防火地域:防火地域を取り囲む住宅密集地・商業地など。
-
法22条区域(建築基準法第22条指定区域):一般的な市街地の大部分。火の粉による延焼を防ぐため、屋根の不燃性能・飛び火防止性能が義務付けられます。
「DR飛火認定(飛び火認定)」とは?
上記の防火地域・準防火地域・22条区域の屋根に太陽光発電設備を設置する際、製品構造に応じて国土交通大臣による「飛び火認定(通称:DR認定)」の取得が必要となります。認定を受けずに不適合な設備を設置した場合、建築基準法違反となり是正命令や罰則の対象となるリスクがあります。
設置形態による認定要件の違い
-
BIPV(建材一体型太陽電池)
太陽光パネル自体が「屋根材」を兼ねるため、屋根としての飛び火性能(DR認定)および不燃材料認定の取得が必須です。モジュール単体ではなく、専用下地や固定金具を含めたシステム全体での大臣認定取得が求められます。 -
BAPV(屋根置き型太陽光モジュール)
既存の認定屋根の上に架台を介して設置する場合、屋根自体の防火性能が維持されているか、自治体の指導指針(火災予防条例等)に適合しているかを確認する必要があります。 -
ソーラーカーポート
自走式立体駐車場や屋根付きカーポートは「建築物」として扱われます。屋根部分に太陽光パネルを敷設する場合、建築確認申請とともに屋根の飛び火防止基準を満たす必要があります。
4. 失敗しないモジュール選定:誇大広告の見極め方
太陽光パネルを選定・調達する際、カタログや営業資料に記載されている宣伝文句を鵜呑みにしないよう注意が必要です。
-
「自己消火性がある」「難燃モジュールである」という口頭表現に注意
「難燃性の素材を使っている」「三防(防火・防塵・防遮断)設計だから燃えにくい」といったセールストークは、公的な耐火性能を保証するものではありません。 -
第三者認証レポート(Test Report)の原本を確認する
採用を検討しているモジュールが、IEC 61730-2におけるClass Aなのか、Class C止まりなのか、公認試験機関(TÜV、UL、JET等)の試験証明書を確認することが重要です。防火等級が不明瞭な製品に過剰なプレミアム価格を支払うべきではありません。 -
プロジェクト初期での設置場所法規チェック
設計事務所やEPC企業は、設計段階で設置予定地が「防火地域」「準防火地域」「22条区域」のいずれに該当するかを自治体の都市計画図で確認し、必要な認定要件(DR認定の有無)をあらかじめ仕様書に落とし込む必要があります。
5. 太陽光発電の防火認証・DR飛火認定は「Pachitec」にご相談ください
都市部での太陽光発電プロジェクトを成功させ、火災リスクから事業と社会を守るためには、「規格に適合した製品開発」と「現地の建築法規への正確な対応」が不可欠です。
Pachitecでは、太陽光モジュールメーカー様、商社様、EPC・発電事業者様に向けて、防火試験および日本市場向け認証取得をワンストップでサポートしています。
Pachitecの提供サービス
-
IEC 61730-2 / ANSI/UL 790 防火試験支援
Class A / Class B 取得に向けた構造事前確認、試験プラン策定、認定試験の手配代行 -
日本市場向け DR飛火認定(国土交通大臣認定)コンサルティング
BIPVモジュールやソーラーカーポートの飛び火試験の実施サポート、申請書類作成、行政・指定性能評価機関対応 -
製品仕様・法規適合性レビュー
日本国内の建築基準法(防火・準防火・22条地域)および消防法に適合するための技術アドバイザリー
「海外工場で製造したモジュールを日本でDR認定させたい」「Class A取得に向けた最適な材料選定を相談したい」など、太陽光の防火安全に関するご質問・ご相談は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

